広がる賃金のデジタル払い~新たな賃金支払方法としての活用~
近年、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中、労働者の給与受取方法にも新たな選択肢が加わりました。それが、「賃金のデジタル払い」です。
従来、賃金は原則「通貨(現金)」で支払う必要がありましたが、労働者の同意があれば銀行振込も可能とされてきました。2023年の制度改正により、厚生労働大臣が指定した資金移動業者の口座も、賃金の受取先として認められるようになりました。
※資金移動業者とは、銀行以外の事業者が、顧客から依頼を受けて資金を移動する為替取引(送金)を業として営む事業者を指します。具体的には、資金決済に関する法律に基づき、内閣総理大臣の登録を受けて事業を行っている事業者です。
◆賃金支払方法の選択肢の拡大
【従来】
┌─────────────┐
│ ① 現金(通貨) │
│ ② 銀行口座(要同意) │
└─────────────┘
【現在】
┌────────────────────────────┐
│ ① 現金(通貨) │
│ ② 銀行・信用金庫等の口座(要同意) │
│ ③ 資金移動業者の口座【デジタル払い】(要同意) │
└────────────────────────────┘
◆賃金のデジタル払いのポイント
- 労働者の同意が必要
- 全額でなく一部でも可
- 後から銀行口座へ変更も可能
- 強制不可/希望しない場合は現行通り
- ポイント・仮想通貨での支払いは不可
◆支払パターンの例
【パターンA】従来通りの銀行振込
→ 全額 銀行口座へ
【パターンB】デジタル払い(全額)
→ 全額 資金移動業者の口座へ(要同意)
【パターンC】ハイブリッド受取
→ 一部 銀行口座 + 一部 資金移動業者口座
◆資金移動業者には厳格な指定要件
利用可能な資金移動業者は、セキュリティや資金保全体制など厳格な基準を満たし、厚生労働大臣の指定を受けた事業者に限られます。制度設計には、公労使三者の代表による労働政策審議会での議論を経て、労働者保護を前提にルールが整備されています。
◆まとめ
賃金のデジタル払いは、現代の働き方に合った柔軟な制度です。しかし、あくまでも「選択肢」の一つであり、労働者の自由な意思が最優先されます。導入を検討する際は、制度の趣旨と注意点を正しく理解し、労働者との十分な対話を行うことが重要です。
大阪の税理士 杉本会計事務所
大阪市東住吉区杭全3-4-4
企業第五課 監査担当 田中伸子