事業承継税制
- はじめに
中小企業にとって、事業承継は経営の大きな節目であり、企業の存続や雇用の維持にも関わる重要な課題です。そのなかでも、中小企業にとって大きな壁となるのが相続税・贈与税の負担です。この課題を解消するために設けられているのが、「事業承継税制」です。
事業承継税制には、法人版として「一般措置」と「特例措置」の二種類が設けられているほか、個人事業者向けの制度も存在します。本コラムでは、法人向けの「一般措置」と時限的に用意されている「特例措置」、そして、個人事業者向けの制度について解説します。
- 一般措置
事業承継税制の「一般措置」は、後継者が円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を相続または贈与によって取得した際に、一定の要件を満たすことで相続税や贈与税の納税が猶予され、後継者の死亡等により、猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。
この一般措置では、後継者が納付すべき株式等に対応する納税額が、贈与の場合は贈与税の全額、相続の場合は相続税の80%が猶予されます。ただし、承継後5年間は平均8割の雇用を維持することや、承継後5年間は毎年、その後は3年ごとに継続届出書を提出しなければならないなどの条件があり、条件を満たさなくなった場合には猶予が打ち切られ、利子税を加えて納付する必要があることには注意する必要があります。
- 特例措置
事業承継税制には上記の「一般措置」の他、「特例措置」も設置されています。この特例措置は、対象株式数の上限が撤廃されたことに加えて、贈与と相続いずれの場合であっても株式評価額の全額が納税猶予の対象であることや、後継者の数が3人までに広がったことで、一般措置に比べて適用要件が緩和され、納税猶予の範囲が拡大された制度になっています。ただし、特例措置は平成30年1月1日から令和9年12月31日までの贈与・相続等が対象であり、期限が設けられています。さらに、適用するためには平成30年4月1日から令和8年3月31日までに特例承継計画を提出しなければなりません。
- 個人事業者版の事業承継税制
法人のみではなく、個人事業者の事業承継についても、納税猶予制度は設けられています。この制度では、青色申告に係る事業を行っていた事業者の後継者として円滑化法の認定を受けた者が、個人の事業用資産を贈与又は相続等により取得した場合において、その事業用資産に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもとで、その納税の全額を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。対象資産は、事業の用に供されていた土地(400㎡まで)や、建物(床面積800㎡まで)、および一定の減価償却資産であり、不動産貸付事業等は除かれます。また、平成31年1月1日から令和10年12月31日までの贈与・相続が対象であり、適用する場合は平成31年4月1日から令和8年3月31日までに「個人事業承継計画」を提出し、確認を受ける必要があります。
- おわりに
事業承継税制は、法人版では「一般措置」と「特例措置」の2つが存在し、加えて個人事業者向けにも相続税・贈与税の納税猶予制度が整備されています。特に、特例措置は要件が大きく緩和されており、後継者にとって大きな負担軽減となりますが、その反面、制度の適用には期限が設けられているため、注意が必要です。
事業承継について悩まれている方や事業承継税制に関してご相談をお持ちの方は、ぜひ弊所までお気軽にご相談ください。
参照
国税庁
「法人版事業承継税制」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/houjin.htm
「非上場株式等についての贈与税・相続税の 納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku-zoyo/201905/01.pdf
「個人版事業承継税制」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/kojin.htm
「個人の事業用資産についての贈与税・相続税の 納税猶予・免除(個人版事業承継税制)のあらまし」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0025004-115-04.pdf
鈴木宗久(2025).「令和7年度版 税務ハンドブック」. 株式会社コントロール社.
大阪の税理士 杉本会計事務所
大阪市東住吉区杭全3-4-4
企業第二課 監査担当 東 寛太郎