イノベーション拠点税制とは? ― 国内研究開発を後押しする新制度
今回は、令和6年4月からスタートした「イノベーション拠点税制」について、概要と背景をご紹介します。
■ 制度の概要
この制度は、特許やAI関連ソフトウェアなどの知的財産を活用して得たライセンス収入や譲渡収入について、一定の条件を満たすと最大30%の所得控除が認められるという優遇税制です。
重要なのは、その知的財産を「自社が主として日本国内で研究開発したかどうか」という点。
つまり、「国内での自社開発」が証明できれば、減税の対象になるという仕組みです。
■ 制度創設の背景
近年、日本企業が研究開発拠点を海外に移す動きが加速しています。
グローバル競争の中で「海外の方が有利では?」と判断されがちな現状を踏まえ、国内での研究活動を促すために本制度が導入されました。
- 対象となる知的財産
本制度の対象となる知的財産は、具体的には、我が国の国際競争力の強化に資する特許権又はAI関連のプログラムの著作物であって、申告法人が令和6年4月1日以降に取得又は制作をしたものとなります。我が国の国際競争力の強化に資するものとは、科学技術イノベーションの推進、グローバル人材の育成、デジタル化の推進、規制改革、自由貿易の推進などが挙げられます。
また、以下のようなケースでは、対象知的財産に係る研究開発を行った場合に該当しないため、対象となる知的財産を有しているとは言えない点に注意が必要になります。
⑴共同研究開発で対象となるAI関連のプログラムの著作物を制作したが、申告法人がAI関連に該当する部分の研究開発を行っていない。
⑵吸収合併等による組織再編で対象知的財産を承継した。
⑶大学等の研究機関の研究者が起業する際、その設立に先立って研究機関において当該研究者が研究開発し、対象知的財産を取得しており、対象知的財産を当該研究者が設立した企業に移転した。
■ 国際的な整合性も確保
この制度は、OECD(経済協力開発機構)の示す国際ルール、「BEPSプロジェクト」にも対応しています。
BEPSとは「税源侵食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting)」の略で、企業が税率の低い国に利益を移し、過度な節税を図る行為を防ぐための国際的な取り組みです。
その中で示された「ネクサス・アプローチ」という考え方に基づき、研究開発を実際に行った企業にのみ優遇を与えるという仕組みが求められています。
日本のイノベーション拠点税制も、この国際基準に則って制度設計がされています。
■ 今後の実務への影響は?
特に、AIやソフトウェア、先端技術系の知的財産を保有する企業では、今後この税制を活用できる場面が出てくるかもしれません。
- 参考サイト・資料
経済産業省「イノベーション拠点税制(イノベーションボックス税制)について」
https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/tax/about_innovation_tax.html
経済産業省「令和6年度税制改正の大綱の概要」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2024/06taikou_gaiyou.htm
国税庁「令和6年度法人税関係法令の改正の概要」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2024/01.htm
OECD「BEPSプロジェクト概要」
https://www.oecd.org/tax/beps/
大阪の税理士
大阪市東住吉区杭全3-4-4
税理士法人 悠久 杉本会計事務所
企業第五課 監査担当 田中伸子